2.認知機能障害と遺言の有効性の関係

ア 認知機能障害と遺言の有効性の関係

認知症は、上記のように様々な症状が発生しますが、認知症の中核症状は、大まかに言うと、記憶力・理解力・判断力という精神的機能が障害される「記憶障害、見当識障害、失語・言語障害、失認、実行機能障害」と精神的な機能が障害された結果身体的な機能が損なわれる「失行」に分類することが可能です。

他方、自筆証書遺言と公正証書遺言の要件は、精神的機能の障害が問題になるもの、身体的な機能と精神的な機能の両方が問題になるものがあります。

そこで、認知症に関して遺言の有効性を検討する場合は、認知症の中核症状と自筆証書遺言・公正証書遺言の要件がどのように結びつくかを整理することが有用だと思います。以下に、認知症の中核症状と自筆証書遺言・公正証書遺言の要件の関係を整理した表を示しますので参考にしてください(なお、以下の表は、思考の整理のために一般的な枠組みを示すものであることにご注意ください)。

イ 自筆証書遺言の場合

自筆証書遺言の場合、全文・日付・氏名の自書と押印という物理的な作業が、公正証書遺言に比べ、多く必要とされることが特徴です。そのため、失行・失認という認知症の症状がある場合、自書性と押印が可能であったかが問題となります(失認は、対象物を理解・把握する能力が損なわれるため、その結果、遺言書を作成するという行動が困難になるため、自書性・押印に問題が生じます)。実行機能障害は、物事を順序立てて具体的に進めていく能力が障害される場合ですので、遺言の内容が詳細な場合などは、その自書性に疑問が生じることになります。

また、自書性に関しては、「文字を知っていること」すなわち、知識として文字を知っていることに加え、文字によって構成される文章を理解する能力が必要とされます。したがって、遺言者に失語の症状がある場合、言葉や単語が上手く出てこなくなる、文書や他人が言っていることが理解し難くなるという症状があるため、「文字を知っている」と評価できるかという点で自書性が問題になります。

記憶障害と見当識障害は、精神的な機能が障害されるため、自書性や押印の問題は生じにくく、意思能力の問題として主張することが妥当であると思われます。失認と実行機能障害も精神的な機能が障害されることから、自書性・押印の問題と併せて、意思能力の問題としても主張します。

以上の関係性を整理すると次の表のとおりです。

認知機能障害と自筆証書遺言の要件の関係

以下の表は、自筆証書遺言の要件との関係で典型的に問題を生じさせる症状を○、そうでないものを×としております。したがって、×とされた症状が自筆証書遺言の要件に全く問題を生じさせないとの趣旨ではありません。

認知機能障害 問題となる要件
自書性 押印 意思能力
記憶障害 × ×
見当識障害 × ×
失語・言語障害 ×
失行
失認
実行機能障害

ウ 公正証書遺言の場合

公正証書遺言の場合、遺言の文書作成という物理的作業は公証人が行うため、文書作成に関する遺言者の身体的能力は、殆ど問題になりません(署名能力が問題になりえますが、署名をする身体能力がない場合は、公証人がその理由を付記することで署名・押印を省略できます)。

他方、公正証書遺言の場合、自筆証書遺言にはない「口授」→「読み聞かせ・閲読」→「承認・署名押印」という記憶力・理解力・判断力等の精神的機能が多く要求されますので、記憶障害、見当識障害、失語・言語障害、実行機能障害が問題になります。また、これらの障害は、意思能力においても同様に問題になります。認知症により、記憶障害、見当識障害、失語・言語障害、実行機能障害が生じている場合、これらにより、公正証書遺言の有効要件である「口授」→「読み聞かせ・閲読」→「承認・署名押印」に問題が生じると同時に、公正証書遺言を無効とする意思能力の不存在が疑われることになります。実際の遺言無効確認請求訴訟においても、認知症を原因として、公正証書遺言が成立していないと主張する場合、意思能力が不存在であるとして公正証書遺言が無効であると主張する場合、両者を併せて主張する場合があります。

認知機能障害と公正証書遺言の要件の関係

以下の表は、公正証書遺言の要件との関係で典型的に問題を生じさせる症状を○、そうでないものを×としております。したがって、×とされた症状が公正証書遺言の要件に全く問題を生じさせないとの趣旨ではありません。

認知機能障害 問題となる要件
口授 読み聞かせ・閲読 承認・署名押印 意思能力
記憶障害 ×
見当識障害 × × ×
失語・言語障害 ×
失行 × × ×
失認 × × ×
実行機能障害 ×

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