遺言に抵触する生前処分は確定的に法律効果が生じる必要があるとした事例

事案の要点

  • 遺言者は、昭和31年1月13日付遺言により財団法人清水育英会設立の寄付行為をした。
  • 同年12月25日、遺言者は、財団法人三桝育英会設立の寄付行為をし、財団設立の許可を主務官庁に申請した。
  • 遺言者は、昭和32年4月22日に死亡した。遺言者死亡時点では、三桝育英会についての設立許可はされていなかった。

判例のポイント

結論

財団法人三桝育英会の設立の寄付行為をしたもののその設立許可がなされていない状況では、財団法人設立の効果は生じないから、当該寄付行為が遺言に抵触する余地はない

判断のポイント

本件の争点は、昭和31年12月に遺言者が財団法人設立の寄付行為をし、同財団の設立申請をした行為が、遺言と抵触するか(民法1022条)という点です。

この点について、本判決は、生前処分が遺言に抵触するには、『単に生前処分によって遺言者の意思が表示されただけでは足りず、生前処分によって確定的に法律効果が生じていることを要するものと解するのが相当である。』と判示しました。

本判決は、財団法人設立の意思表示(寄付行為)は、財団法人設立に関する主務官庁の許可を停止条件とするものであることを前提に、財団設立が許可されていない以上、生前処分である清水育英会設立に関する寄付行為が確定的に効果を生じたとは言えず、当該寄付行為が遺言に抵触する余地はないと判示しました。

遺言者の最終意思を尊重するという視点からは、清水育英会の設立の寄付行為及び主務官庁への設立申請をもって、遺言と抵触するべきとも考えられますが、遺言の撤回は、相続人、受遺者、遺言執行者等の利害関係人に重大な影響を与えることから、単に生前処分の意思表示では足りず、確定的な効力が生じることまで要求した点に本判決の意義があると思われます。

判例紹介

最判昭和43年12月24日民集22巻13号3270頁

民法一〇二三条一項の規定は、前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなす旨を定め、同条二項の規定は、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合にこれを準用する旨を定めている。すなわち、同条二項は、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為(以下単に生前処分という。)と抵触する場合には、その抵触する部分については、遺言を取り消したものとみなす旨を定めたものである。

その法意は、遺言者がした生前処分に表示された遺言者の最終意思を重んずるにあることはいうまでもないが、他面において、遺言の取消は、相続人、受遺者、遺言執行者などの法律上の地位に重大な影響を及ぼすものであることにかんがみれば、遺言と生前処分が抵触するかどうかは、慎重に決せられるべきで、単に生前処分によつて遺言者の意思が表示されただけでは足りず、生前処分によつて確定的に法律効果が生じていることを要するものと解するのが相当である。すなわち、遺言後に遺言者がした生前処分がその内容において遺言に抵触するものであつても、それが無効であり、または詐欺もしくは強迫を理由として有効に取り消されたときは、その生前処分は、はじめから法律行為としての本来の効力を生ぜず、または生じなかつたことになるのであるから、その生前処分は遺言に抵触したものということはできない(民法一〇二五条但書参照)。これと同様に、その生前処分が停止条件つきのものであるときは、その停止条件が成就したことが確定されないかぎり、その生前処分は法律行為としての本来の効力をいまだ生じていないのであるから、それが内容においてすでになされた遺言と抵触するものであつても、いまだ遺言に抵触するものということはできず、したがつて、遺言は取り消されたものとみなすことはできない。そして、このことは、右の停止条件がいわゆる法定条件にあたる場合であつても、法律効果が生じていない点からみれば、同様に解することができる。

ところで、一般に、財団法人の設立については、設立者の寄附行為と主務官庁の許可という二個の必要条件があつて、財団法人の設立者のする寄附行為は、法人を設立しようとする効果意思と一定の財産をこれに帰属させようとする効果意思とを内容とする相手方のない単独行為で、一定の財産の出捐と寄附行為書の作成によつてされるところ、その法律効果である財団法人が設立されるためには、主務官庁の許可をえることが必要であつて、主務官庁の許可をえてはじめて財団法人が設立されることになる。その意味において、財団法人の設立を目的とする意思表示は、主務官庁の許可という成否の未確定な将来の事実を法定の停止条件とするものであると解するのが相当である。

したがつて、遺言による寄附行為に基づく財団法人の設立行為がされたあとで、遺言者の生前処分の寄附行為に基づく財団設立行為がされて、両者が競合する形式になつた場合において、右生前処分が遺言と抵触し、したがつて、その遺言が取り消されたものとみなされるためには、少なくとも、まず、右生前処分の寄附行為に基づく財団設立行為が主務官庁の許可によつて、その財団が設立され、その効果の生じたことを必要とし、ただ単に生前処分の寄附行為に基づく財団設立手続がされたというだけでは、その法律効果は生じないから、遺言との抵触の問題は生ずる余地がないことは、前述したところから、明らかである。

原判決の判示するところによると、Aが昭和三一年一月一三日原判決の遺言をもつて第一審判決の別紙第一記載の財団法人清水育英会設立の寄附行為をしたこと、右Aが、その生前で、右遺言後の同三一年一二月二五日第一審判決の別紙第二記載の財団法人三桝育英会設立の寄附行為をし、財団設立手続をしたが、これについていまだ主務官庁の許可がされていないというのであるから、右確定した事実のもとでは、右生前処分にあたる財団法人三桝育英会設立の寄附行為は、まだその効力を生じていないというべきであつて、これだけでもつて、前記遺言による財団法人清水育英会設立の寄附行為と抵触すべき生前処分があると解することができないものといわなければならない。

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