4.実務で多い無効原因-認知症-

ア 認知症と遺言の有効性の関係

近年、社会の高齢化が進んだことにより認知症の患者数が増加していること、遺言の作成件数が増加していることが相俟って、認知症の状態で遺言が作成され、相続発生後にその遺言の効力が争われることが増えてきました。

認知症という概念は、医学上の概念であり、遺言の有効・無効に関する法律上の概念ではないため、認知症=遺言が無効になるというわけではありません。認知症が原因で遺言が無効とされる事例は、認知症の具体的な症状が遺言の有効要件をみたさない又は無効事由にあたることになった結果、遺言が無効とされています。

イ 自筆証書遺言と認知症の関係

認知症が原因で自筆証書遺言の効力が問題になる事例は、大きく分けると、1.失語・失認・失行といった症状との関係で「自書」の要件をみたすかという問題、2.認知症の症状を総合的に評価した結果「意思能力(自己の行為の法的な結果を認識・判断することができる能力)」を欠くのではないかという問題があります。自筆証書遺言の場合、遺言者が自ら遺言書を書くという作業がありますので、精神的な能力に加えて、この作業を行えるか否かが問題になる点が特徴的です。

なお、認知症の症状と自筆証書遺言の要件の関係は、認知症と遺言無効の基礎知識編をご確認ください。

ウ 公正証書遺言と認知症の関係

公正証書遺言の場合、自筆証書遺言とは異なり、自分で遺言書を作成する必要はありません。そのため、遺言を作成する身体的能力に関する失認及び失行はあまり問題になりません。

公正証書遺言において専ら問題になるのは、1.公正証書の有効要件である「口授」→「読み聞かせ・閲覧」→「承認」との関係で遺言者が遺言の内容等を記憶し、公証人に伝え、内容を理解する能力があったか、2.「意思能力(自己の行為の法的な結果を認識・判断することができる能力)」との関係で遺言の内容・結果を理解する能力が問題となります。

上記1.及び2.については、記憶障害及び失語・言語障害との関係が重要です。記憶障害が重度の場合、遺言者は遺言の内容記憶できず、失語が重度の場合遺言の趣旨を伝える言葉を想起することが困難になります。そのため遺言の内容を公証人に伝えること「口授」もできないことから、「口授」の要件との関係で記憶障害・失語が問題になります。こう考えていくと、意思能力を欠く場合は口授もできないのではないかとの疑問がわいてきます。裁判例を見る限り、「口授」が不存在との主張のみしているもの、意思能力を欠くとの主張のみしているもの、両者が欠けるとの主張をしているものがあります。「口授」→「読み聞かせ・閲覧」→「承認」の不存在を証明するための事実関係と意思能力が欠けることを証明するための事実関係は大部分が重複するものと思われますが、全く同一ではないこと(意思能力は抽象的な要件のため、遺言者の意思無能力を根拠付けるためより多様な認知症の症状を主張することができると思われます)から両者を主張するのが穏当のように思われます。

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