4.医療記録・介護記録から無効原因を特定する

医療記録・介護記録には、医学的知見に基づく医師の診断結果や遺言者の日々の言動などが記載されています。これらの記載と認知症の中核症状と周辺症状の関係を意識して医療記録・介護記録を読み込むと良いでしょう。

ア 医療記録の読み解き方

(1)診療録(カルテ)

診療録(カルテ)の場合、専門用語(略語含む)で記載されていること、日本語で記載されていない場合があるという問題があります。この問題については、一般の方は無理せずにカルテの解読サービスを利用するのがベストです。インターネットで検索するといくつも業者が見つかります。

次に、カルテを日本語に翻訳した場合でも、カルテの記載内容が一義的ではないため具体的にどのような症状を意味するのかが分からないという問題があります。例えば、カルテには、「簡単な意思疎通しかできない」といった多分に評価的要素を含んだ記載がなされることがありますが、このカルテを記載した医師以外の人間には、どのようなことが「簡単な意思疎通」なのかということが理解できません。そこで、このような場合は、カルテの記載の具体的な意味内容や趣旨について、当該カルテを記載した医師に確認することになります。最も、素朴な方法としては、担当医師に会って話を聞くとい方法がありますが、遺言のトラブルになっている場合、面会に応じてもらえない場合があります。そのような場合は、弁護士会照会や民事訴訟法で定められた書面尋問によりカルテの記載の具体的な意味内容や趣旨を確認することになります。なお、担当医師を証人として申請することもありえますが、通常医師の出頭を求める場合、日程の調整が難航し手続が遅延すること、他方、証人尋問の内容はカルテの記載の具体的な意味内容や趣旨程度であり、敢えて証人として出頭を求めるままでの必要性はないと思われます。

(2)看護記録

看護記録は、患者の毎日の様子具体的な言動が数時間おきに記載されています。診療録は、専ら医師が確認した患者の事実状態に対する医学的評価が記載されているのに対し、看護記録は、担当看護士が確認した事実そのものが記載されているという点に特徴があります。遺言の効力を遺言者の行動観察的な側面(遺言者の言動、実際の症状)から争う場合、看護記録の記載はとても重要になります。

遺言者の言動は、基本的には、遺言作成日及びその近接した前後のそれが重要ですので、この時期の看護記録をじっくりと読み進めます。次に、半年、3ヶ月という期間の看護記録を読んでいくと、遺言者の認知症の周辺症状として日常的・高頻度で発生しているものとそうでない症状など、遺言者の認知症の傾向が読み取れます。ここで読み取れた遺言者の症状を遺言の成立要件や意思能力との関係で有利な事情として主張できるかを検討することになります。

(3)知能テスト(長谷川テストなど)

知能テストについては、長谷川テストが代表的です。知能テストの場合は、カルテの記載が担当医師の所見に基づく医学的な評価が記載されているのに対し、客観的なテストによる結果であるという点で、認知症の専門家ではない裁判官が認知症の程度を判断する場合に分かり易い資料と言えます。裁判例においても、判断の前提として知能テストの点数を認定しているケースが多くありますので、裁判例との比較で知能テストの結果を主張するのも効果的であると思われます。

また、知能テストの点数だけでなく、質問内容と答えの正誤を整理することで、遺言者の具体的な認知症の症状を明かにすることができます(例えば、記憶力に関する質問の誤りが多い、見当識に関する質問の誤りが多い等)。

イ 介護記録の読み解き方

(1)アセスメントシート(課題分析)

アセスメントシートには、遺言者の心身の状況に関する詳細な事項が記載されています。アセスメントシートの記載は、定型の質問事項に答えをチェックする方式であることが多いため、遺言者の心身の状況を網羅的把握できると言うメリットがあります。

(2)介護サービス計画(ケアプラン)

介護サービス計画は、アセスメントシートに記載された遺言者の心身の状況を踏まえ、具体的にどのような介護サービスを提供するべきかが記載されています。その具体的な介護サービスの内容をみることで、遺言者の認知症の程度(重症度)を推し量ることが可能です。

(3)サービス提供記録(ケース記録)

サービス提供記録は、実際に提供された介護サービスを記録したものですので、介護サービス計画と同様、遺言者の認知症の程度(重症度)を推測することが可能です。また、サービス提供記録には、サービス提供時の遺言者の具体的な言動が記載されていますので、看護記録と同様、遺言の効力を遺言者の行動観察的な側面(遺言者の言動、実際の症状)から争う場合にとても重要な資料になります。

ウ 要介護認定申請資料の読み解き方

(1)主治医意見書

主治医意見書は、要介護認定申請に利用するために作成された定型の書式を利用して作成される医師の意見書です。主治医意見書についても、カルテと同様、担当医の所見に基づく医学的な評価が記載されているという点で、その評価の根拠になった症状が分からないという問題があります。もっとも、主治医意見書に関しては、厚生労働省から主治医意見書作成の手引きというガイドラインが示されており、この手引きを参照することで、主治医意見書における医学的評価の前提になった具体的症状を推測することができます。

(2)要介護認定申請調査票

要介護認定申請調査票は、要介護認定の申請をする際、調査員が遺言者に面接して心身の状況を確認し、その結果を記載した資料です。同調査票は、アセスメントシート同様、質問事項が定型で準備されており、該当部分にチェックを入れるとう方式で作成されているため、症状を網羅的に把握できるというメリットがあります。また、同調査票の別紙に定型の質問項目に関する補足事項を記載する特記事項欄があるため、定型の質問事項で把握しきれない遺言者特有の状況についても確認することができます。

要介護認定申請調査票は、質問項目が肉体的な能力、精神的な能力などにカテゴリー分けされているので、各項目と遺言の要件の関係を整理しながら読みすすめると非常に得るものが多い資料です。

また、遺言者の心身の状況が悪化した場合、悪化した状況を介護サービスに反映させる(要介護度の認定を変更する)ため、要介護認定の有効期間中でも要介護認定の申請がされるのが通常です。こうしたことから、要介護認定申請に関する資料は(主治医意見書もそうですが)、遺言者の心身の状況の変動・経過を忠実に反映している資料ということができます。

要介護認定申請調査票の記載は、内容が網羅的な分抽象度が高い記載が含まれますが、これらの記載の具体的な意味付けについては、厚生労働省が準備している「認定調査員テキスト」を参照することで確認することが可能です。例えば、要介護認定調査票には、「日常の意思決定」という項目について、「特別な場合を除いてできる」とのチェック項目があります。これだけでは、どのような場合が特別な場合なのか、が全く不明ですが、認定調査員テキストでは、「特別な場合を除いてできる」とは、「慣れ親しんだ日常生活状況のもとでは、見たいテレビ番組やその日の献立、着る服の選択等に関する意思決定はできるが、ケアプランの作成への参加、ケアの方法・治療方針への合意等には、指示や支援を必要とする」場合と具体的な説明がなされています。

要介護認定申請調査票を認定調査員テキストを参照しながら、時系列で読み進めることで、遺言者の心身の状況を正確に把握することが出来ます。

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